【将棋】オリジナル戦法④ 飛車美濃
第4回。
飛車美濃
飛車美濃は相振り対三間の時に発動する戦法で、序盤このように飛車を居飛車のまま美濃囲いで囲います(笑)
一見舐めプのような指し方なんですが、ちゃんと理由があって最善手順として行っている戦法。
そしてこれはれっきとした「相振り」です。
成功手順
基本的に飛車美濃は相手が三間から飛車先を交換してきた際に逆用することで理想手順が実現するんですが、その場合の流れ。
最初から交換してくる場合もありますが、相手がこちらの駒組みが普通じゃないことを見て少し交換を警戒した場合も、ここを突くと次に金を上がられると交換できなくなるので最終チャンス、という状況にすることができて、交換してきてくれる場合も多いです。
交換してきたら、歩を受けずに金を上がります。
この際、都合がいいことに?飛車を34に引くと相手がうっかり36歩と打ったら84飛の嫌がらせが炸裂するぜ!と見える後手は引っ掛かれ引っ掛かれと喜んで34に引いてくれやすいです(笑)
実際はそれこそがこちらの引っ掛け手順なんですが・・・。
ほんとにこれを食らってはいけないので、34に引かれたら角を上がります。
(86歩でもいいといえばいいのですが、角上がりの方が将来相手が暴れてきた際に87に打ち込む手がない分少しだけ得だと思います)
以下、相手が順当に石田に組んでくるので、こちらは飛車も動かさず、玉も動かさず、ひたすら銀冠に組んでいきます。
さらに居飛車のまま玉移動(笑)
この時点で、相手から何も攻めがないことがわかります。
45歩同歩46歩と気持ちよく打ち込んでくる人もままいるのですが、48金と引いて続きが一切ありません。(これはありがたい無理攻めとしてむしろ誘ってます)
もし相手がこれをしてきたら、どうせ相手に続きの攻めはないので「相手が攻めてきた! 今すぐ反撃の手を指さなきゃ!」などと思う必要もなく、全く何もせず平気な顔で38金右、29飛、28玉として銀冠を完成させてその後飛車を左に持っていってください。
戻って、39玉以下、何もできない相手は手待ちを繰り返すしかないのですが、先手はどんどん理想形に組んでいきます。
最終的にこんな感じ。
目的
なぜこのような、居飛車(および居玉)のまま銀冠を組むような異質な指し方が「最善手順」なのか、ですが、この指し方の意味は対石田において最有力であるけども手数がかかって途中スキも多い銀冠をどうやって早く、スキなく構築するか、という点にあります。
ここから先は相当高度な話になるので(アマチュア四、五段クラスを想定)ちょっと難しいかもしれませんが、とりあえず説明。
銀冠を組もうとしているけど、もし飛車の移動や玉の移動を優先してしまうと、こんな感じの局面になります。
もうこの時点で(銀冠を組む場合は)作戦負けです。
銀冠に組む場合は相手が3筋を交換してきた際に、47金と上がれないと(=37に歩を打たずに36に打てる形にしないと)実現できません。
この図は相手が交換を相当待ってくれた場合になってますが、それでも間に合ってません。
そして何かの奇跡が起きて(笑)飛車先交換に47金から36歩が実現できたとしても、進めるとこの局面になります。
先ほど似たような局面で相手からの攻めが一切ないと書きましたが、この場合はあります。
先ほど無理攻めとしたこの攻めをした際に
最後歩が取れるので成立してしまいます。
このように、一見銀冠に対し石田に組むのは無謀なようで、実際は銀冠には組めないんです。逆に言えば銀冠が怖くて石田を避ける理由が相手になくなります。
つまり、石田に対して銀冠を組む際の最重要ポイントは「相手の石田陣形(青丸)が完成するまでに自分の銀冠の前線陣形(赤丸)を間に合わせることができるか」にかかっています。
しかし飛車や玉を優先していると、今見た通り(これだけ後手に優先順位が低い手を優先させたにも関わらず)これが間に合いません。
これを間に合わせるために苦心の順として、居飛車居玉で銀冠の頭を完成させに行く本譜の順になっているのです。
【再掲】途中図
石田に対し銀冠を組みたい場合は、頭の完成を何より優先する必要がある、そして頭が完成してしまえばその後相手からの攻めがないのでどれだけ手がかかってもゆっくり飛車や玉を移動できる。
よってこれが「最善手順」になるのです。
居飛車が「最善」であるもう一つの理由
先ほどこの戦法の理論をアマチュア四、五段クラスの高度な話と言いましたが、「余裕で理解できてるよ(笑)」という人もいるかも知れません。
ではそういう人にテスト。この局面は先手が普通に飛車を回ってから銀冠を組みに行っている場合で、後手が後回しにできる手は後回しにする、で最速で攻撃陣を組みに来た場合ですが、銀冠を組む場合既に作戦負けなのは分かりますか? 分かるなら理由を説明できますか?
既に説明したことなので分かって当然なのですが、本当に理解できているかがこれでわかります。
銀冠を組む場合銀には銀、桂には桂を合わせないといけないのですが、それで進むとこの局面になります。(▲26歩△33桂▲37桂△54銀▲56銀)
はい、先ほど説明した、27銀が間に合ってない形になりますね?
これはテストをしたようで実は次の説明がしたいための例だったのですが、銀冠初期の頃はこれで困ってしまって、対応策としてこうすることがありました。
どういう意味かというと、46歩に同金と取れるようにして相手からの仕掛けを消しているということです。
しかしこれは一度振った飛車を再び戻すことで対応しています。
つまり一手損です。
しかし相手が銀冠を最大限に警戒した組み方(攻撃陣の構築を最優先する)をした場合、この図は先手として避けられずに発生する図なので飛車戻りが悪手(=他の手で受かる)なわけではありません。
つまり、せっかく飛車を回ってもまた戻すことになるなら、飛車を回る手の優先順位って低いよね?というのが居飛車のままで銀冠を組んでいくもう一つの論理的理由になります。
同じ話を別の視点でもう一度説明してみます。
相振り石田に対し銀冠を組む場合はこの赤丸が間に合うかどうかという勝負だという話をしました。
しかし後手が最善(=最速)を尽くすとそれが間に合わない展開にできます。
つまり後手から見て、銀冠を防ぐことができます。
この時、間にあってない手数は一手です。
その一手をどう捻出しますか? 省ける無駄な手はどれですか?
そう、飛車回りの一手ですね。
飛車回りの一手を後回しにすることで後手が最速できたとしても26歩27銀が間に合うようになります。
居飛車のままで組むことが最善であり、かつ必要なことだとわかりますね。
余談ですが、もしどうしても失敗してさっきの局面になった場合は
【再掲】
45歩に対し同桂と取って同桂に放置して11角成とするという緊急対応的手段はあります。
が、これはあくまで非常手段であり本筋ではないですし、話がややこしくなるだけなので省略します。
後手の工夫
前述した通り石田側として銀冠を警戒する必要は普通はないのですが(紹介した「最善手順」が相手だとあります)、先手が矢倉を選ぶことはでき、その場合は石田側はやっぱり盛り上がりを警戒する必要があります。
石田に対し矢倉に組んで26銀から35銀を狙うのは定跡書にも載っている基本的な先手側の対応であり、有力です。
ただその展開は比較的後手の暴れも誘発しそれなりに攻められるのでよほど受けに自信がある人以外は「簡単に無理攻めにできる」展開にはなりません。
矢倉も十分有力ですが銀冠はそれ以上に有力なので、あくまでより良い方を求めるという意味で銀冠を前提にこの戦法の話は進めます。
そうなると相手も強くなった場合、飛車先交換後に下段まで引く人が出てきます。
以下飛車を4筋に振り直して攻めの陣形を作ります。
これは「最善銀冠」に対しては有力な指し方でおそらく三間側の最善手段ですが、この場合もこちらの大変手数のかかる陣形構築中の防御手段として、こちらも48に飛車を回って受ける手段が選択肢としてあります。
この場合も飛車周りを後回しにした効果が出ていますね。
将棋の指し手の優先順位
将棋の指し手を「玉の安全度を上げる」「攻撃陣を作る」「相手の仕掛けを消す」の3つで考えた場合に、その優先順位は
- 相手の仕掛けを消す
- 玉の安全度を上げる
- 攻撃陣を作る
だと個人的には思っています。(多分に私が受け将棋なことも関係しますが)
玉の安全度を優先して囲いに行くとこちらの攻めの陣形が完成しないうちに先行されるかもしれません。
攻撃陣を作るのを優先するとこちらの陣形が不安定なまま戦いになるかもしれません。
将棋は自分が無限に指せるゲームではないのでどうしてもそうなります。
しかし相手の仕掛けを消した状態であれば、相手からは何もできないのでこちらは玉の安全度にも、攻撃陣の構築にも好きなだけ手数をかけることができるのです。
「相手に有効手がなくて自分にはある、そういう状況を作る」のが将棋の極意、だと思っています。
この飛車美濃はその考え方を最大限に取り入れた戦法です。