電王戦

今頃ですが過去の対局について思うところを書きます。

第3局 船江恒平五段 vs ツツカナ

プロにとっても、プレッシャーはすごいんだなぁと。
将棋というものは大逆転のゲームで、プレッシャーと無縁ではいられないものなのですが、しかし船江五段はプロ。
プロというのは、そういうプレッシャーの中をかいくぐり、勝ち残ってきた、いわゆる「強い人」たちだけがなれる領域です。
しかも船江五段は若手であり、強力な終盤力をもっており、コンピュータ将棋に対するプレッシャーは一番感じずに済みそうな棋士
さらに局面は駒得かつ相手からの攻めが全くない状態で、斬り合いによる一手違いとか、一発鬼手が飛んでくる恐怖とか、そういうのとも無縁な情勢。
そこからでも船江五段をブレさせるほど、コンピュータ将棋と時間切迫の中、終盤を戦うというのは、絶大なプレッシャーなんだなぁと・・・。
自分自身が指すことに関しても、ある程度年令を重ねてからそういう逆転に対するプレッシャーが嫌いになってもう10年近く真剣勝負はやってないのですが(=24でのレーティング対戦。早指し適当指しのフリー対戦ばっかやってます)、この対局は将棋の「怖さ」を改めて感じさせられました。
電王戦、視聴者としては非常に楽しく見させてもらってますが、やってるプロ側は下手すると壊れるんじゃないかという心配すら、失礼ながらしてしまいます・・・。

良好な関係

本局の船江五段とツツカナは最も良好な関係であったようです。
今回の電王戦における人間側とコンピュータ(の開発者)側との関係は色々なパターンがあるようですが、一番大きなのはソフトの貸し出しをするか否か。
第1局の習甦は旧バージョンを貸し出し、第2局のponanzaは一切の貸し出しなし、第4局のPuella αは第1回電王戦の時のものを貸し出し、第5局のGPSはそもそもオープンソースなので自由にDL可。
そしてこの第3局のツツカナは、最新バージョンの貸し出し。ほぼ本番と同じ物を提供したそうです。
これはもともとは一年前のバージョンを渡すつもりだったのが、船江五段の真摯な姿勢に感銘を受けて全力での協力体制を決意されたそうです。
それを受けて、船江五段側も自身の公式戦の棋譜を一式ツツカナ側に提供。
今回の対局の中で、最も開発者側と棋士側の関係が良好であったのはこの二者だったと思います。こういうのはいいですね。

目的

↑の話と関係しますが、そもそもこのプロ棋士とコンピュータ将棋が対局する目的はなんなのでしょうか。
「電王戦の」それは興行的な意味が主ですが、そうではなくてあくまで人間とコンピュータとの関係としての目的。
元々コンピュータ将棋は、非常に弱かった頃からプロ棋士側の善意による多大な協力を得て進歩して来ました。
いわば師匠のような関係の訳で、その師匠に力が追いついてきた時に対局する目的は、いわゆる「恩返し」にあたると思います。
それはつまり成長した自分の実力を存分に発揮し、師匠の全力にぶつかって、その上で超えること。



決して「かつては自分より強かった人を、自己の満足心のために打ち負かして跪かせ、勝利の優越感に浸る」ことではないと。



つまり、師匠=プロ棋士側にも万全の体制を与え、その上で戦って、力で勝つ、もしくは負けるべきではないかと。
全然規模の違う話ではありますが、私もゲームで師匠に付いて一生懸命練習し、実力を上げて恩返しすることがあります。
その時、勝つことを全ての目的として相手に情報公開しなかったり、相手が100%の力を発揮できないような環境を作って無理やり勝ちやすくしたりということは一切しません。むしろ師匠が実力を発揮できそうにない場合は発揮できるよう環境を整えます。
私は電王戦はあくまでプロ棋士を打ち負かすためのものではなく、今までお世話になって成長してきた自分を全力でぶつける棋戦、であってほしいです。そういう目的であって欲しい。
その結果勝ったり負けたりなら、そこには何の遺恨もない。しかし勝つことを目的にしてほしくないです。これまでの経緯上。

貸し出しの是非

その目的に立つと、ソフトの貸し出しはしてほしいです。しかも極力最新バージョンを。
ソフトの貸し出しをすると弱点を突かれる指し方をされる、というのが開発者側の危惧のようですが、それは当然ではないかと。
自分に弱点があるならそれは克服すべきで、そこを突かないよう対局相手にお願いすることが正しいソフトウェアの進化とは思えません。
代表的なのが入玉に弱い、ということですが、だから入玉を狙わないで、というのは、サッカーゲームを作ったけどオフサイドに関するルーチンを組み込むのが難しいから、オフサイドトラップはしないでと言っているようなもので、そう言われても「いやサッカーのルーチンを作ってるんじゃないの?」と思うだけです。(注:私はプログラマーなのでこれはプログラマー視点での話です)
一応プログラマー視点で言うと、貸し出した場合に危惧する点は1つだけあります。
それは、「再現性のある勝利手順を構築し、初手から投了までその手順をなぞった指し方をする」ことです。コンピュータ将棋に対しては昔からある「必勝法」ですが、これだと指してる人間側の棋力が全く関係なく、例えアマチュアでも勝ててしまうため、それは確かに避けるべき事態です。
しかし、現実問題としてそれをしてくるプロ棋士はいないと思います。また、そもそもしようにも、現在のコンピュータ将棋は定跡段階ではランダム性のある指し方をしていること、そしてなにより、PC環境が全く同じでないと、同じ手順はコンピュータ側が再現しないことから、現実にも不可能です。(上の「必勝法」は自分のPCで対局する場合に使える方法)
コンピュータ将棋が入玉に弱いとか、角換わりに弱いとか、こう指すと桂を無理攻めに跳ねてくるとか、そういうのは突かれているようですが、私はそれは問題ないかと。
藤井さんに居飛車穴熊をしたら藤井システムをしてくる、対藤井システムには自信があるから居飛車穴熊に囲ってそれを誘う、というのは、ただの戦法選択であり、ハメ手順でもなんでもありません。
第1局のあの桂跳ねについても、コンピュータはあれが最善と思っている、阿部四段はそれが悪手だと思っている、そこで以降お互いの力で(すなわち手順再現ではなくて)戦ってどっちが正しいか勝負した、という構図でしかないと思います。

コンピュータ側の「反則」

同じく勝利を得たいのか「恩返し」をしたいのかで言うと、第2局および第3局でコンピュータ将棋開発者側がやった、相手の研究(得意分野)を外すために序盤の数手を人間側で直接指定する、という手法は、すべきでないことと思います。
すべきでないというか、はっきり「反則」である、と、私は考えます。
コンピュータが考えて指すのがコンピュータ将棋であり、それが今回人間と対局する意義ですよね? それを人間が介入してコンピュータの意思ではなく「ここでこう指して」と指定することはそもそもの土台から崩すのではないかと。
これは完全に目的を忘れた、ともかく勝利がほしいためだけの行為に思います。自分の組んだプログラムに対局してほしい、そして勝ってほしい、多分プログラマーなら普通誰でもそう考えるはずです。最も自分の作り出したソフトウェアを愛しているはずの開発者本人がそれをしなかったのは同じプログラマーとしてただただ疑問。
まあ、そういう感情的な部分は置いておいても、そもそも根本の定義に反する行為であり、これはもし第3回電王戦があるとしたら、禁止事項に入れるべきではないでしょうか。